山彦さんと眼鏡

山彦さんの朝は早い。
4時にポッポーと目覚まし時計が鳴る。
続いて、軽快な音楽でスマホのアラームが鳴る。
さらにアレクサが起こしてくれる。
騒がしい。

我が家は、夫婦別寝室。
隣り合った自分の部屋がそれぞれ有って、そこで別々に寝る。
朝型の私と夜型の山彦さんは活動時間帯が違う。
そして、寒がりの私と暑がりの山彦さんでは、好みの室温も違う。
睡眠は大切と思っていたので、一緒に寝る事より、私が快適に寝る事に重きを置いた結果こうなった。
とは言え、山彦さんの部屋から、各種アラームが鳴り響くとつられて私も目が覚める。
もともと朝型タイプの私は、9時に寝て4時に起きる生活に馴染むのに、時間がかからなかった。
サラリーマン時代だって、10時に寝て5時に起きていたので1時間前倒しになっただけという感覚である。
ケド、山彦さんは違う。
2時、3時まで起きてて、8時、9時に起きる生活をしていた人だ。
今の生活は、慣れるまで、まだ辛そうだ。

4時に起きた山彦さんは、ブルーベリージャムやマーマレードの入ったヨーグルトを130g食べて、シャワーを浴びて、5時半には家を出る。
車通勤である。
6時過ぎには会社に着いて、さらに会社の車に乗り換えてその日の現場に向かうのである。
それは、一人の時も、乗り合いの時もあるらしい。

私たちのスマホには、お互いの位置情報がわかるアプリが入っている。
なので、スマホが電池切れでなければ、アプリを開いて、どこにいるかおおよそ分かるようになっている。
時々、山彦さんの位置情報を確認しては、フムフムと謎に納得している私である。

今日は15時過ぎに、「眼鏡が壊れた」とラインが入った。
気付いたのが16時半頃で、すぐに返信したけれど、返事が無い。
午前中は雷が鳴って雨が降り続いた。
視界は悪いし、地盤も緩んでるかもしれない。
きっと事故だ。
思い込みの激しい私は、倒木が山彦さんにあたった→それは眼鏡が壊れるような位置である→だとしたら頭を打ってるかもしれない、いや、きっとそうだ→救急搬送されて連絡が出来ない状況になっている→重症、ひょっとして死んでるかも?
等と妄想し、プチパニックに陥った。
不安を払拭しようと、ラインを立て続けに送る。
「怪我してない?」
「運転は出来そうなの?」
・・・、ノーリアクション。
既読にもならない。
これはまずい。
オロオロした挙句に、会社に問い合わせてみようかと思い立つ。
ケド、何かあれば、会社の方から連絡が入るはずだし、何でもなかったら大騒ぎして恥ずかしい。
もう少し様子を見るべきか、勇気をだして問い合わせてみるべきか?
後から、問い合わせておくんだったと後悔するのは嫌だ。
よし、電話してみよう!

決心し、電話しようとスマホを持った。
そこで、ふと、今どこにいるんだろうと位置情報を確認してみた。
もう、病院に搬送されているかもしれないと。

そしたら、今日の現場から会社に向かって進んでるではないですか。
時は、17時過ぎ。
およ?
てことは、だ。
定時で終わって、会社に向かっているって事だよ。
ん?どういうこと?
「運転は出来てるの?」「大丈夫?」
更にラインを送るが、またしてもノーリアクション。

ほどなくして、会社に到着したっぽいこと確認。
続いて会社から帰宅しようとしているっぽいのを確認。
ようやく「生きてるし、運転も出来てる」と判断。
そしたら、途端になぜノーリアクションなのか!と怒りがこみあげてくる。
匂わせおじさんだよ。
「眼鏡がこわれた」だけ言って、あとは御想像にお任せって、何匂わせてんだよ。
怒りが治まらないまま、帰宅を待つ私。

ガチャ。
「ただいま」
「・・・」
ただいまじゃ無いわ、と心の声。
しかも、眼鏡掛けてんじゃん。
と、次の瞬間、爆笑。
無い、左目のレンズが。切れてる、左目のフレームが。
えー!!!

事の次第は、なんてことない。
朝型生活に慣れてない山彦さんが、お昼ご飯を食べたら眠くなり、車で仮眠した。
仮眠中に眼鏡が落下。
山彦さんが起床するも、眼鏡が落ちていることに気が付かず踏んづけて、破壊。
今日は、同乗者がいたので、会社までは運転してもらい、会社からは壊れた眼鏡で帰宅した。
目が見えないから、ライン出来なかった。
それだけ。
きこりも悪天候も一切関係ない。
なんなら、家でも起こるありふれた事。
眼鏡をはずさず寝てしまって、寝ている間に外れて、そうとは知らず寝返りうつ・・・とか。
普通にありそうじゃん。
家なら、「あーあ、やっちまったよ、眼鏡買わないといけなくなったよ、シクシク」終了、だよ。
いやいや、事故じゃなくて良かったよ。
重症でも死亡でもなくて、ほんと良かったよ。
良かったんだけどね。
だけどね。

私のオロオロした時間をかえせー。

 

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