健康な母、病気の母

まめまる母

山彦さんのお母さんと私の母は同じ年に生まれた同級生である。
私の母は、広島県の瀬戸内海に面した所で生まれ育った。
祖母は、瀬戸内の温暖な気候を利用し、畑を耕し、ミカンを栽培していた。
毎日、祖母が作る野菜や果物が食卓に上がり、瀬戸内海で獲れる海の幸が並んだ。
山彦さんの母は、鹿児島県の出身。
やはり、山彦さんの祖母も畑仕事をし、手作りの野菜や果物を使って料理をしていた。
カステラや羊羹のようなスイーツも手作りだったと言う。
鹿児島県も海の恵みが豊かな土地だから、海産物も豊富で、新鮮な魚介類が身近だったそうだ。

どちらの母も、自営業の男性と結婚し、それぞれ2人の子供を産んだ。
サラリーマンに比べると、所得が安定せず、経済的にはどちらも大変だったようだが、あえて比べるなら私の母の方が少し余裕が有ったようだ。
私の父は商売人としての素質が少し有ったのだろう。
仕事が忙しくなり、私の母は父の仕事を手伝うようになった。
おのずと、食事は外食と出来合いのお惣菜が増えていった。
山彦さんの母は、義父が頑固というかポリシーをしっかり持った方で、仕事を選んだ。
儲けの大きい仕事でも、納得できなければやらない。
経済的にはしんどい時期が長く続いたと言う。
結果、日々の食事に困るような状況になり、山彦さんの母はありとあらゆる物を手作りするようになった。
自宅の周りで野菜を育てた。
味噌、漬物、梅干し、ジャム、果物のシロップ煮、乾物等も手作りで常備し、裁縫や編み物で洋服をしたてた。

現在、どちらも81歳。
私の母は、透析を週に3回受けて、命をつないでいる。
山彦さんの母は、頭も体も至って元気で一人暮らしだ。

何故このような違いが出たのか?
推測でしかないが、やはり結婚後の食事の影響が大きいのではないかと思っている。
例えば、象徴的なのは、お正月だった。
年が明けると、それぞれの実家にお年始の挨拶に行く。
元日に山彦さんの実家へ行き、2日に私の実家へ行く。
山彦さんの実家では、お義母さんの手作りのお料理が並ぶ。
購入するのは、お刺身と蒲鉾位。
昆布巻きも、ごまめも、お煮しめも、黒豆も、棒鱈も、何もかも手作り。
デザートは柿等の果物を出して下さる。
私の実家では、お煮しめや黒豆は母の手作りだが、メインは「おせちセット」。
あらかじめ予約した商品が、12月31日に届けられる。
商売をしていたから、取引先との関係で付き合いの側面も有ったのだろうけれど、結婚するまで私の感覚では「おせちは買うもの」だったから、おそらく小学生の頃には、それが普通だったのだと思う。
毎年和食のおせちだとつまらないから、中華料理屋さんで中華のおせちを頼んだり、オードブルセットのような洋食だったりしたけれど、「買うもの」であることには違いない。
デザートはケーキやアイスクリーム。
おせちにかかる金額は、私の実家のおせちの方がおそらく高い。
(両方の母の人件費を入れなければ、だけれど)
見た目や派手さも、私の実家の方が美しい。
プロの方が出来るだけ良く見せようと精いっぱい飾っているのだから当たり前。
ケド、味は、山彦さんのお母さんの方が美味しい。
無駄に塩分を高くしなくても、上質なお出汁で作られたお料理は、くどさも嫌な味も臭いも無い。
いつもより値の張る食材を新鮮なうちに料理してくださってるから、訳の分からないソースや餡を掛ける必要も無いし色を付ける必要も無い、余計なことをしなくても素材の味が美味しい。
そして何より、圧倒的に健康的である。
購入するおせちは、保存性を高める必要があるから、多くの添加物を使うし、塩分も高い。
食べる何か月も前から仕込まれ保存、冷凍される。
その過程で、栄養素が沢山失われる。
商用だから仕方ない。
対して、山彦さんのお母のおせちは、味噌は手作りだし、お出汁はお取り寄せした天然のもの、砂糖は黒砂糖。
レタスやトマトと等のフレッシュな野菜だって盛り付けられる。
ビタミンやミネラルが損なわれない。
豊かなのだ。

対称的だったから、おせちを例に挙げたけれど、購入するおせちを否定するわけじゃない。
良質な物だって沢山有るし、購入するからこそ食べれる素材や名物だってある。
見た目も、流石に美しいし、届いたおせちを開封する時のわくわく感は悪くない。
何より、忙しい主婦の救世主だから、仕事を持つ主婦はむしろ活用するべきと思う。
ケド、日常の食事が、いつも同じだったらどうだろうか?
毎日3回。
素材と調味料を吟味し、自らの手で作った料理を食べている人と、出来合いのお惣菜を買ってきて食べている人。
徐々に差が付くのは、当然なのではないかと思う。

勿論、運動の習慣や、元々の体質等、健康に及ぼす影響は食事だけでは無い。
それでも私は、私の母ではなく、山彦さんの母の食生活をお手本にしたいと思っている。

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